、俯いて、「……お前まで」と失望したような聲が聞こえて、健人はぐっと拳を握った。
「それに父さんは可哀想なんかじゃない。本當に可哀想なのは、見捨てられて、その存在まで忘れられることだ。ちゃんと母さんの中でも、俺の中でも、父さんは生きている。俺の父さんは、ただ一人だ。俺が生きている限り、父さんはたった一人なんだ」
忘れようと思っても、忘れられないのが現実だ。健人の中で流れている血は、義父のものではなく、6年前に死んでしまった父の物だ。健人が生きている限り、健人の中でも母の中でも父は生きていることになる。忘れることなんて、絶対に出來ないことだった。
「それとも、お祖父さんは母さんがずっと一人で居てほしいの? それこそ、母さんが可哀想だ……。誰にも頼ることが出來ず、死んでしまった父さん一人のために、殘りの人生を無駄にするなんて……。そっちのほうが可哀想だ」
「……健人、もう良いわよ。母さんは大丈夫だから」
「大丈夫じゃないだろ! 母さんは強がってるだけだ。俺にぐらい、弱いところ見せてよ。母さんが隠れて泣いてたのも知ってるし、月命日にお墓掃除行ってるのだって知ってる。再婚するって聞いた時も、父さんのこと忘れたいだけだと思ってたけど。そうじゃないんだろ? それなら、ちゃんと説明してくれよ。じゃないと、俺、分かんない」
泣きそうな顔をしながら思っていることを全て吐き出した健人に、母は笑って見せた。その笑顔が無性に弱々しく見えて、いつの間にか、母はそんなに強い人じゃなかったことを知る。強いと思っていたのは、その虛像を見ていたからなのだろうか。
「博人さんのことを忘れたくて、再婚したわけじゃないわ。……単に私が、あの人を好きになってしまっただけなの。それが博人さんを裡切ってしまうんじゃないかと思って、健人には最後まで言えなかったわ。だって、健人は博人さんに悽く似てるから。言うのが怖かったのよ」
母は健人の頭を愛おしそうに撫でる。その手が優しくて、健人の胸が締めつけられた。
「ごめんなさいね、健人。あなたが一番苦しんでいるの分かってたんだけど……。これ以上、一人にさせたくなかったのよ。これからでも、母親らしいこと、したくてね。博人さんのことを忘れることはできない。けど、忘れることが出來なくなる以上に、私は勉さんを愛してしまったの」
それがどれほど深い愛なのか、健人には分からない。母が父を愛してきたことは分かっているが、それを上回ってしまったのだろう。母は決して、父のことを忘れてしまうような弱い人ではない。忘れることが目的で再婚したのなら、健人は母のことを嫌いになっていただろう。けれど、今、はっきり言葉で証明してくれた。
だから、味方で居ようと思った。
「良いよ、母さん。母さんがやりたいようにやったらいいと思う。俺も、頑張るから……」
「ありがとう、健人」
抱きしめられた腕が震えていて、健人は困ったように笑い母の背中を撫でた。健人が跡�盲筏皮い胍隕稀⒆娓袱茸婺袱蝦韋庋預�蕒�勝い瑜Δ侵Bめたようにため息をついて別室から出て行った。少しの間、健人は母を宥めて、いつまでも泣き続けている母の背中を優しく撫でていた。
「……へぇ、じゃぁ、一応は解決ってとこ?」
「さぁな。あの様子じゃ、祖父さんと祖母さんは跡�盲筏皮勝い撙郡い坤�槨勝 �栴}は色々あるんじ